2006年10月

第7回
安心に包まれて


突然、寒くなる。この時期、毎年感じることだ。

つい先日まで「半袖着ていた」「泳いでいた」「かき氷食べていた」のが、気温の変化により急な変化を強いられる。

タンスからぬくぬくのシャツを引っ張り出す。かき氷機とカセットコンロを入れ替える。

「泳いでた?誰が?そんなのカッパと海坊主くらいでしょ」。喜喜として通っていた海水浴さえも否定したいほどの肌寒さ。冷蔵庫を占拠していた麦茶は姿を消し、今はしょうが湯をふうふう言って飲んでいる。

「今からこんなんで、冬本番はどうするんだろうねえ」長い冬に思いをはせ、先行き不安になるのもまた、年中行事(?)のひとつ。

この秋、「突然」はもうひとつ起きた。

「40」。。。年じゃないよ。体重でも。ふくらはぎならこれくらいかな。発熱である。滅多にないことに。

40°まで上がったのはたぶん、生まれて初めての体験だろう。おかげで「子どもって熱があっても元気だよね」と不思議に思っていたナゾが解けた。あれは「元気」なのではなく「浮かされている」のだ、きっと。

雲の上をふわふわ漂っている気分。転んだって痛くない、これなら。立ち上がろうとするけれど、そのたび後方に意識が遠のいていく。

「寝よ寝よ、熱を出した者の特権じゃ」

わーいと心を決めたのに、そこから主婦はやることが多いとこの時知った。家族みんなの布団を敷いて、温めれば食べられるところまで夕飯を作り、お風呂の準備に洗濯たたみ。

「宿題やった?」「明日の着替えはこれね」と子どもたちに声をかけ、「寝ます。後はよろしく」と旦那にメールする。「私ってがんばりやさん」もうろうとした頭で自分をたたえ、やっと布団に潜り込んだ。

翌日。陽だまりサロンはオープンさせた。

「オーナーは寝ています」と書いた黒板を置いて。みんな自分の家のように使っているから、私がいなくても勝手にやってくれる。このシステムはうまくできている、と布団の中で自画自賛。それでも時折気になり階下に顔を出す。と、「大丈夫ですかぁ?」と次々声をかけてくれる。

どこで知ったか、「買い物にも出られないだろうから」と差し入れをしてくれる人もいて。喉ごしのいいヨーグルトやプリンの他、袋を開けたゆず茶やタッパ入りのりんご煮まで。「家にある物をとりあえず持ってきた」感が、大急ぎで駆けつけてくれたムードを盛り立てかえって嬉しい。

「ありがとう」

物より何よりその心遣いが 、発汗で乾ききった体に染みていく。

地域のつながりが薄れているという。でもここは、そんなこととは無縁だね。困っている人を、手の空いた人が助ける好循環ができているもの。そう安心して、再び体を横たえた。

息子が幼稚園から戻ってきたようだ。娘も「ただいまー」とランドセルを置いた。体温計や薬の並んだ枕元で、「お母さん、明日は元気になってね」と娘がささやく。息子はいつまでもいつまでも髪をなでてくれる。いつも私がそうしているように。しまった、寝たふりしてるのに「ふふ」っと 口もとがにやけてしまった。

「お母さん、楽しい夢見てるんだね」

暖かな余韻に包まれて、いつの間にか深い眠りについた。