2007年3月

第12回
なごり雪


「今頃雪かい?」 とまどうのは大人だけ。

「かまくら作りたいなー」と、雪が降るのを待ちに待った息子は、この大雪に喜び勇んで出かけていった。が、張り切りすぎてあっけなく風邪を引くことになる。

外出禁止令を出され、恨めしそうに降る雪を眺める息子。ちょっぴり不憫である。雪よ、風邪が治るまで積もっていておくれ。

そういえば「なごり雪」という歌があったな。いつも今頃の季節になると、どこからともなく聞こえてくる別れの曲。耳にするたび、きゅっとせつないものが走るあのメロディ。今年はなぜだか、いつにも増して胸を締め付けられる。

大切な友人から、お世話になった人から、一緒に笑いあった仲間から「引っ越します」と立て続けに告げられた。

「そっか。。。どこに行くことになったの?いつ越すの?」

いつもそんなありきたりの質問を返すだけ。

「じゃあね」と一人になってから、思い出のシーンが次々あふれ出し、どうしようもならなくなるんだ。

子どものことや家族のことを、涙をためながら話してくれたね。

いつも誰かのことを気にかけて、一生懸命走っていたね。

陽だまりでお茶しながら、いつもけらけら笑い転げたよね。

残される方が辛いのかもしれない。旅立つ人は、吹っ切れた顔をしてもうとっくに前を向いて進み始めている。

家を離れる朝、涙ぐんでいる母の気持ちにより添えなかった18の頃がよみがえる。そう、きっとあの時の私ように、行く人は風船のように夢を膨らませ、明日のことに思いをはせているんだ。新しい街には何が待っているだろう、今度はどんな友人ができるのだろう、そんな期待ではち切れそうになりながら。

それならもう、悲しがるのはやめにしよう。

「出会えてよかった」と「ありがとう、また会おうね」と精一杯の笑顔で送り出そう。彼女たちの記憶にいつまでも、笑った私が残るように。

去る者と残る者。

新しい地でも彼女たちは、自分の場所を見つけ、自分らしい色で活躍していくことだろう。新しい地に、新しい種をまき続けるだろう。遠く離れてしまっても、ずっとエールを送っているよ。

私はここに残り、彼女たちのように、初めての土地で暮らす誰かを支えていこう。遠くに住む友人たちの元までも、にぎわいが届くことを願いながら。

それぞれのフィールドで、それぞれの花を咲かせよう。
それが、私たちの使命。
それが、私たちの誇り。
それが、私たちの生きている証であるから。

「落ちてはとける雪を見てい」た顔を上げ、グーンと高みに腕を伸ばし、どこまでも続く空を仰いだ。