2008年1月

第22回
今、この時、君たちと


「冬休み ああ冬休み 冬休み」

幼稚園の先生として働いていた頃、長休みの前になると決まって保護者に言われたこと。

「早く休みが終わってくれないかしら〜」

(自分の子でしょ?)と心の中でつぶやいたけれど、今ならその気持ち、よーくわかる。なんとまあ、1日の長いこと。

作ったものを見てほしく、自分の話を聞いてほしくて、10秒ごとに「お母さ〜ん」。朝ご飯が終わったとたんに「昼ご飯はなあに?」、昼が終わると「夜は?」と聞かれ。

ばかと言ったの言わないの、えびせんの数が多いの少ないので、とっくみあいのけんかが始まる。そんなことしてたら、お母さんが食べちゃうぞ。

そんな折り、ふいの頭痛に襲われて半日布団から出られない日があった。だんなは出張、雪に閉ざされた家の中で3人きり。

普段ぴんぴんの健康体だからちょっとの痛みにも弱いのか、それともほんとに痛いのか、とにかく目も開けられない。「痛いー、痛いー」。

唸っていると、子ども達がおかゆを作ってきてくれた。鍋敷きをお盆代わりにおかゆとみかん、それに梅干しも添えられている。

「ありがとう・・・」

感激にむせび口にしたそれは、涙が出るほどしょっぱくて(塩が多すぎやしませんか?)。本気でむせた。

やっとの思いで2口飲み込んだそれを下げると次は、財布の何十円かを握りしめてやってきた。

「お使いに行ってきてあげる。ほしいものはなあに?」
「・・・いいよ、おやつでも買っておいで」

防寒着に身を固めて雪の中、肩を並べて近くの商店へと出かけていった。

「ただいまー!」

うとうとしていると、走ってきたのか、ほかほかに上気した顔が飛び込んできた。

「あのね、坂で滑って転んじゃった!」
「お姉ちゃんがぼくを置いて行ったー!!」

話したいことが山ほどもあるのだろう、次々繰り出される言葉に頭がくらくらする。

「・・・お願い、も少し静かに話して」

ひそひそ声になりながらも、その後も話しはとどまるところを知らない。 

「あ・・・おかあさん、これ。食べると痛いの治るんでしょう?」

思い出して右手を差し出す息子。見るとその小さな手には、チロルチョコが握りしめられている。「あはは、そんなに強く握ったら、チョコが溶けちゃうよ」笑いながら受け取った。

そういえば以前、こっそりチョコを食べてるのが見つかって「これはお薬」と言ったことがあったっけ。「そうだね、これ食べるときっと治るね」甘ったるさに包まれながらまた、目を閉じた。

どのくらい時が過ぎたのか。ふと目を覚ますと、子ども達も両脇ですうすう寝息を立てている。いつの間に、痛みもだいぶ和らいでいる。あどけない寝顔を柔らかく見つめた。

思えばこの子たちが小さい頃、四六時中静電気のようにくっついてこられるのが苦しかった。いつもいつでも「早く大きくなって」と祈っていた。それが今ではおかゆも作れるようになり、お使いにも行けるようになった。けれどそれ以上に、人を思いやれる気持ちが育ったことを誇りに思うよ。

これから何度君たちと、川の字になって寝られるのかな?

これから何度君たちと、一緒にご飯が食べられるかな?

これから何度君たちと、シャンプーでうさぎになれるかな?

眠っている顔を右に左に見ていたら、なんだかとても愛おしくなった。

冬休みもあと少し。このひとときを焼き付けよう。大切なのは、「今、この時」だから。