2008年5月

第26回
秋田のパワースポット


5月。新緑が吹き出し、空気が澄み渡る。どこまでだって歩いて行けそうなこの季節。縮んでいた身体に血が巡り、眠っていた細胞が目を覚ましたかのよう。空にだって手が届きそうな、不可能なんてないような、そんな気さえしてくるから不思議。

きらきらの太陽を全身に浴びて、はち切れそうなほど息を吸い込む。「さあ、陽だまりサロン、今日から再開!」。

長く冷たい冬を越え、再びドアを開け放つ。

「こんにちは」、黄色いガーベラみたいな笑顔して、その人はやってきた。

「サロンを見せていただきたいんです。自分もこんな場所を作りたくって」

時々、こんな人が訪ねてくれる。いつか私もそうしたように。

「どうぞどうぞ、ご案内しますね。ここではお母さん達が先生になって、いろんな講座をしてるんです。今日は重曹を使ったホットケーキ作りをしてますね。それからこっちは子ども達が遊ぶ部屋で・・・。あ、これでおしまい(笑)。狭いでしょ?」

「いえいえ、そんなこと。・・・あの、お写真撮っていいですか?」

あちこちカメラを向けながら、時々よその赤ちゃんを抱っこしながら、彼女は溢れ出しそうな想いを語ってくれた。

「助産師をしてたんです、つい最近まで。その時に研修で母乳ケアに出会って、いいなって思って。それでそっちの道でやっていこうって決めて。仕事を辞めて、あさってから勉強に行くんです」

聞くとその学校は九州にあるのだとか。貯めた貯金で滞在し、技術を身につけるのだそう。

仕事を辞めて、学校に入り直す。それって一大決心なはず。なのに、彼女に切迫感や悲壮感はまるでない。「わくわくして仕方がない」のだと言う。

「ハーブティーなんかも出して、足湯なんかもして、そして母乳ケアもする。そんな場にしたいんです」

もう既に、彼女の頭の中には「そんな場」がはっきり見えているらしかった。

そのうちに居合わせた人が1人加わり2人加わり、おしゃべりが始まった。狭いからこそ生まれる「陽だまり流」交流の輪。みんなで彼女の話を聞いて、「それいいね」「こうするのはどう?」なんて好き勝手に話している。

気付くと既にお昼がまわっていた。どうやらみんな、お腹がすくのも忘れて話し込んでいたらしい。

帰ろうと立ち上がった彼女が、弾む声で言った。

「こんなに、お母さん達がいい顔してる空間は初めて!助産師をしていた時は、退院していくお母さんが心配で心配で。みんな不安な顔してたから。『明日からこの人、どうするんだろう』っていつも考えてました。なのにここは違う。みんなが生き生きしていて。ここは、秋田のパワースポットですね。すごく元気が出ました」

「あはは、そうかな。なんかに登録できるといいんだけど。それじゃ、学校から帰ったらまた顔見せに来てね」

「ハイ、見せます!」

なんだか来た時よりも、帰っていく背中が大きく見えたのは気のせいかな。それは、夢に力が宿ったせいかもしれない。夢の背骨に、筋肉がついたせいかもしれない。

そうきっと、不可能なんて存在しない。どこまでだって歩いていける。動き始めた彼女の未来、どうか大きく花開きますように。