2008年7月

第28回
地域の先生大募集


「お母さん、これつかまえたーー!!!!」

玄関の戸を開けるやいなや、大声で叫びながら息子が駆け込む。右手に虫取り網。もう片方の手に高々とかかげた虫かご。

「何かな・・・ん?んんん???」

虫かごに入ったそれは、全くもって「虫」ではなく、ぽわぽわの産毛でくるまれている。座った瞳でこちらを見つめ、発した第一声は、「ぴー」。 

「ぴーってあんた・・・。鳥じゃん、これ。しかも、ヒナ」

息子はヒナを捕獲した様子を、機関銃のように語り始めた。勢い余って「あのね、それでね」が3秒に1回くらい登場したが、ひと言で言うと、からすに襲われていたところを助けたらしい。

「あのね、それでね、ぼく、怒ってからすを蹴っ飛ばしてやった」と言うから、どこまで本当かわからないけれど。 

そーっと大事にたなごころに包み「命は大切だからね」、なんて。どこかで聞いたふうなことをつぶやいている。

そういえば。今私の周りでは、「命」にまつわる話しが多く交わされているような。弘前で心を病む人を受け入れ続けている、佐藤初女さん「食といのちの講演会」。難病の子どもを持つご家族を、丸ごとケアしようという「ファミリーナーシング」勉強会。そしてここ最近急激に増えている「妊娠しました」「生まれそうです」「生まれました」速報。

どれもこれも行き当たるたび、人が生まれてくる神秘を思い、そして生き続けることの難しさ、尊さを感じずにはいられない。

ひとつの命がこの世に生まれ、我が子をこの手に抱けるということ。日々成長を間近で見つめ、立った・歩いた・いたずらしたと、泣いて笑って怒れるということ。当たり前のように手にしてきたその「幸せ」は、なんと恵まれた日常だったことだろう。

この「命」の素晴らしさを、私も誰かに伝えたい。私にも何かできないか。そんな折り、子どもが通う学校から一通の手紙が届いた。

「夏休み子ども解放講座・地域の先生大募集」

夏休み中の子どもを集め、地域に住む大人に「授業」をさせてくれるという。しかも算数でも体育でも、趣味のことでも何でも「可」。

「これだ!」

手にした手紙を「ぱんっ」と打ち、企画書作成、早速学校に持ち込んだ。

「生まれてくれてありがとう。〜あなたは私の宝物〜」

そう名付けた私の「授業」。

お腹に赤ちゃんができた時のどきどきした気持ち、待ちに待った赤ちゃんを抱いた瞬間の誇らしさと責任感。初めて声を出して笑った日のこと、熱でぐずる子を抱え、泣きながら母にに電話したこと。私が通ってきた、そしてどの親もきっと乗り越えてきた「当たり前」を、子ども達に話そう。身長も体重も、生まれたての赤ちゃんそっくりの人形を抱っこさせよう。本物の赤ちゃんにも来てもらい、ぬくもりや鼓動、息づかいを感じてもらおう。

そこから何が伝わるだろう。私は何を伝えられるだろう。

心の片隅にでいい。自分は望まれて生まれてきたと。自分は家族の宝物だと。隣の子も、そのまた隣の子も、みんなの命が宝物だと。

小さくて構わない。かすかにでもそんな何かが芽生えてくれたら。

「ぴーぴーぴー」

手の中のヒナが大きく口を開けた。

「ぴーちゃん、えさだよ、あ〜ん」

一緒に口を開ける息子。その横顔を見つめる私。

「あなたは大切な存在だよ」。「生まれてきてくれてありがとう」。「お母さんはいつだって、あなたが一番大好きよ」。

この夏休み、ありったけの栄養あふれる言葉で、子ども達のお腹を満たしてこよう。