2009年2月

第35回
人を動かすもの


めずらしく1人でラーメン屋に入った。持参した本を片手に「焦がし味噌ラーメン」が運ばれてくるのを待つ。

が、ほどなく。隣に座った2人の会話に耳を奪われた。

「うちの子さあ、哺乳瓶から吸わないんだよ。あの口がだめらしくて」
「へ〜、吸わないんだ」
「でさあ、皿に入れて飲ましてる。楽なんだろうね」
「そうかもしれないな。吸うのって結構力がいるみたいだから」

そんなことを真剣に語り合っている。別に驚かない会話である。普通なら。でも驚いたんである。普通じゃない気がして。

その2人は作業服姿。近くの現場に来ての昼食らしい。話し役の方は無精ひげ。そう、それは「男性」2人連れだったのだ。

話しは妻が育児疲れで朝起きてこないことや、保育園での対応へと広がっていった。

「睡眠不足っていうけど、俺より寝てるべって言ってやりたい」
「哺乳瓶使えないと保育園の先生に悪いって言うんだけど、向こうはそれが仕事だろ」

そんな話に片方が熱心にうなずいている。むふふ、これは面白い。

「お待たせしました。焦がし醤油ラーメン野菜盛りになります」

もっと聞きたいところで彼らのも到着。残念、そういうメニューもあったのか(違うって)。

ちょっとしたカルチャーショック。そうか、世のだんな様はこんな話しもするんだな。言われたかないけど、妻のグチなんかも出るんだな。思ったより家族のことを考え、子どもにも関わっているのかもしれないな。

そういえば。以前一緒に仕事をさせていただいた、とある社長さんが話していた。「社員にも子育てに関心を持つ男性が増えている」と。それもいやいやではなく、自分から関わりたがるのだとか。

子どもの行事で有休を取ったり、昼休み、隣設の託児所へ子どもの歯磨きに出かけたりするのだという。「へえ〜、そんな男性もいるんだ」。聞いていてなんだか嬉しくなった。でも、なんでだ?率直に疑問も感じた。

「ベッカムなどのスターが子育てをする姿が報道された影響が大きいようです」と社長さんは教えてくれた。

ベッカムが子どもを肩車して歩く姿。ブラピが「家族で楽しめるスポットはない?」と逆質問した来日記者会見。近いところでは、柳葉さんが故郷に戻り仕事もPTAも積極的にたずさわる様子。「そういう姿を見聞きして、子育てする父親をかっこいいと捉え始めたようだ」と。 

いい傾向である。たいへんいい傾向である。動機はどうあれ、男性も育児を「自分事(じぶんごと)」として受け止めることはとても悦ばしい。

「男女平等だから男も育児を」と訴えるより、奥さんが「手伝ってよっ」と激怒するより。1枚の写真や映像、ひとつの記事が自らを動かすんだな。

「なんだか未来は明るいぞ」

そんなことを思いながら、ずずっとスープを飲み干した。