2009年3月

第36回
キットダイジョウブ


「キット ダイジョウブ」

絵の具を溶いたような露草色。こんなに青い空を見たのは何ヶ月ぶりかな。渡り鳥が北に向かい、もうすぐ春がやってくる。

「主人の転勤で引っ越すことになりました」

この時期、決まって数人から連絡が入る。

「いつものこと。そう、いつものこと」

どんなに自分に言い聞かせても、やっぱりせつなさは消せない。その人と一緒にいた光景が思い出されて。

陽だまりに包まれて、肩を並べて笑ったね。「次は何をしようか」と、いたずらな顔しておしゃべりしたね。本のこと、子どものこと、これからのこと、時間(とき)を忘れて話したね。

あの笑顔も、声も。空気も、ぬくもりも。春になれば遠くなる。

ふいに寂しさが募り、彼女たちのブログを開く。ここに残す仲間のこと、ここに残した足跡のこと。揺れる気持ちが胸を打つ。

「キット ダイジョウブ

空は繋がっているし

心も繋がっているから 」

何日かたって。

「本を返しに来ました」

その中のひとりが尋ねて来てくれた。

「転勤先を訪れて、向こうで住む家を決めてきました」

そう言って微笑む彼女は、もう次に向かって歩き始めていた。

そう、泣いていたって朝日は昇る。洗濯物もたまってく。豆腐が切れたら買い物に行く。全ては昨日と同じく回っていくんだ。

だから、私も涙を拭いて顔を上げよう。あなたはあなたの住む場所で、私は私の住む場所で。与えられた地で精一杯。自分の花を開こうね。自分の色で咲かそうね。

この露草色は、どこまでもどこまでも繋がっている。

だから「キット ダイジョウブ」!!