2010年8月

第53回
ちょっと緊張・・・講演録2


「私なんていなくてもいい」
そんな無気力な生き方をくつがえす「事件」が起きたのは、高校2年の帰り道でした。

いつものように友人と街を歩いていました。
「のど乾いたね。なんか飲もっか」
立ち寄ったデパートのフードコート。
学校帰りの生徒、買い物中の女性、ふらり来たようなご老人。
たくさんの人がいる中で突然、赤ん坊の泣き声が響き渡りました。

「ぎゃーー!!」

「なに!?」

声のする方を探すと、そこには親子と思われる3人の姿。
椅子に座った母親らしき女性と、床に置かれた赤ん坊。
その赤ん坊を、あろうことか父親らしき男性が仁王立ちになって蹴ったのです。
女性が素早く子どもを抱き、背中を丸めて抱え込みます。
すると男性は、近くにあった傘立てを女性めがけて振り下ろしました。
どすっ。鈍い音がしました。
女性はそれでも自分ではなく、腕の中の赤ん坊を守ったままです。

その光景を目の当たりにし、体中の血がかーっと上るのを感じました。
また男性が傘立てを振り上げます。
次の瞬間、私は走り出していました。
無心でした。
そして傘立てを振り上げた男性の前に、両手を広げて立ちはだかったのです。

「ドク・ドク・ドク」

心臓の音が自分の耳にまで届きます。
男性がものすごい形相で私をにらみつけます。
私も負けずににらみ返します。

やっとの思いで出たひと言。

「・・・やめてください」

1秒、2秒。どのくらい時間がたったのでしょう。
とても長い時間に感じました。

すると目の前の男性の顔が、ふとゆるみました。
振り上げていた傘立てを降ろしました。
そして「わかったよ、お姉ちゃん」。
その言葉を残し、通りへと消えていったのです。

「亜紀、大丈夫だった?」
「亜紀まで殴られるかと思ったよ」
友だちが駆け寄りました。

その後ろから、絞り出すような小さな小さな声がしました。
「・・・ありがとうございました」
それは、赤ちゃんを抱いた女性がようやく発した声でした。

私はその時、生まれて初めて、人から「ありがとう」を言われた気がしました。
そして思ったのです。
「私でも人の役に立てるんだ」
「私でも、生きてていいんだ」と。

そして「自分が動けば何かが変わる」「アクションを起こせば反応がある」、そんなことを学んだのです。

それからです。
少しずつですが、「動ける自分」に変わってきたのは。

では私が何に向かって一歩踏み出してきたのか、みっつにまとめてお話しします。