2012年4月

第73回
先生みたいな先生になる


「こんにちは」と入って来ただけで、電気がついたみたいに場が明るくなる人がいる。
横にいるだけで、大きな船に揺られているようにゆったりした気分にさせる人がいる。
ひとり混じるだけで、背筋がすっと伸び、空間がきりっと引き締まる人がいる。
それがその人の持つ空気のせいなのか、力なのかはわからない。
人は、人に影響を与える。

「先生みたいな、先生になる」
その手紙を受け取ったのは、幼稚園を辞めて数年がすぎた頃。
初めて担任した子どもたちが、高校を受験する年だった。

「子どもたちといる先生はとても楽しそうだった。
そんな先生と遊ぶのが好きだった。
だからぼくも、先生になるため○○高校に入ります」。
そう書いてくれたのは、男の子だった。
「ああ、あの子の目に私は、そんなふうに映っていたんだ」
胸がじわり、熱くなった。

本人はいたってマジメなのだが、なんともおもしろい子だった。

誰かが間違って自分の帽子をかぶる。すると抗議する。
「それ、ぼくのだよ。ほら、ここに‘ぼくの‘ってかいてるでしょ」

追いかけっこで、逃げた子が隠れる。するとその子は言う。
「出てこ~い!出てこないと、出てきてもらうぞ!!」

「大きくなったら何になりたい?」には「おにいさん」と答えたあの子。
いつかそれが「先生」に変わったんだね。

その年の合格発表、「もしかしたら会えるかも」と出かけてみた。
が、見つけられなかった。
合格を信じて自宅に電話を入れると「だめでした」とお母さんのため息。
それっきりに、なってしまったけれど。

春が来るたび思い出す。
あの子は今どうしているかな。
信念を貫き、先生として歩み出しているかな。
春が来るたび自分を正す。
私は、自分の道を歩いているかな。
そして人に、良い影響を与える人間でいるかな、と。

※あなたは人に、どんな影響を与えたいですか?