2012年7月

第76回
最高のプレゼント前編


「おやつ、これだけか~」
「ま、いいよね。あることはあるんだし・・・」
修学旅行の朝の、息子のつぶやきである。 
「おやつは400円以内」と決められていた。
あなただったら、この400円をどう使うだろう?
スーパーで好きなものを選ぶだろうか。
それとも母親に「かって来てね!」と託すだろうか。
息子は、思いもよらない行動に出た。

旅行前の休日のこと、小銭を握りしめ、「おやつ♪おやつ♪」と駄菓子屋へ走った。
よっちゃんイカや、10円ガムなど、さぞかし細々と買い込んでくるのだろう。
そう思って見送った。
しかし、である。そんな予想はどこへやら。
息子が手にして戻ってきたものは・・・。
なんと!弁当用の醤油みたいな袋入りの、小さな水あめひとつだけ。
頭の中は「?」でいっぱい。何がなんだかわからない。

「400円で、これ1個?」
「・・・うん」
「もしかして、ほかのは食べちゃった?」
「ちがう」
「じゃあ、どうしたの」
 さて、どうしたと思います?

答えはこちら
「・・・400円で、くじ引いた」

息子は400円分の「おやつを買いに」行ったのではなかった。
400円分の「お菓子くじを引きに」行ったのだ。
これは怒る場面なのか、笑う場面なのか。
とりあえず「ばかね~」と力なく言ってみた。

次の日もその次の日も、修学旅行の準備をするにつけ、息子のテンションは下がりっぱなし。
「自業自得でしょ!」と、そのまま送り出そうかとも考えた。
だが、一生に一度のことである。
食べるのも、友だちと交換するのも楽しいはずのその時間。
それが「醤油みたいな水あめひとつ」では、あまりにもかわいそうではないか。
だんなに「甘い!」と言われるの覚悟で、息子が好きそうなおやつをこっそり購入した。

出発の朝がやってきた。
息子はため息をつきながらも、持ち物の最終点検。
「いってきます」と玄関を出る時だ。
「ちょっと待って。はい、これ」と袋に入ったおやつを渡した。
「え?ええ~!」
それっきり、何を言ったらいいのかわからぬよう。
私の顔と袋の中を交互に見ながら、「ええ?」「ええ!」と言いながら行ってしまった。

「楽しんでおいでね!」
私の声は、聞こえたのやら、聞こえないのやら。
やれやれ、とんだおやつ騒動である。
この続きは、また今度。