2013年3月

第84回
五丁目の菓子店


もうすぐ春がめぐりくる。
残る人、離れる人。
送る人、送られる人。
薄桃色した桜の花びらが舞うように、たくさんの別れと出会いが行きかう、この季節。

先月、娘の学年、最後の懇談会があった。
食いしん坊な私は、茶話会の「お菓子係」に名乗りを上げていた。
予算は9000円。参加者42名。
「多めに見積もって、45人分注文して」と言われ、勇んでお店へ。
ひとり200円予算である。

勇んではみたものの、色とりどりのケーキやプリンを前にすると、一向に選ぶことができない。
「ケーキもいいけど、200円じゃあ買えないし」
「焼き菓子だとボロボロこぼすし(←私だけか?)」
店主さんも「時期ですよね。皆さん選ぶのにご苦労されています。予算から出てもダメだし、余ってもダメみたいで」と一緒に考えてくれた。
そんな折、ショーケースの端っこに佇む「ベビーチーズ」と、ぱちん!目が合った。
予算ぴったり200円なり。
ちゃっかり味見させてもらうと、そのトロ~リ、コクのある味わいに舌が反応した。
「これこれ、これにします!45個お願いします。近く受け取りに来ます」
一仕事終えた私は、意気揚々と帰途に就いた。
「こんなの持って行ったら、みんな喜ぶぞ~!私って天才!!」

その夜、一本のメールが入った。
どきっ、学年委員長さんからだ。嫌な予感。
「茶話会の人数が増えるそうです。お菓子、7個追加できますか?」
がび~ん!!!!予感的中、天才返上。
注文しちゃったよ、予算ぴったりだよ。
もう作り始めたかもしれないよ、取り消したくないよ。
なんで今頃増えるのよ、出欠用紙の提出期限守れよみんな~。
完全にパニックである。

だが仕方ない、泣く泣く電話を入れ事情を説明。
「すみません、ベビーチーズ、キャンセルできますか。
もうお店に行って選ぶ時間がないので、クッキーとかを適当に見繕ってください」
そう言うと「工場との兼ね合いもあるので、ちょっと確認してみます」とのこと。
「はい・・・」力なく電話を切った。
そしてほどなく、着信が鳴った。
「若松さん、やっぱりベビーチーズにしませんか?」
「え?それだと予算オーバーなので・・・」
言い終わらないうちに、店主さんが続けた。
「たくさん買ってくださったので、サービスです」
サービス!?
サービスは大好きだけど、おまけや特売も目がないけど、7個も? 1400円分も?
ドキドキして、あわあわ言う私に店主さんは「そうしましょう、そうしましょう。では予定通り、ご準備してお待ちしております」と電話を切ってしまった。

電話を耳にしたまま、口開きっぱなしで空を見つめる私。
「・・・イッツ ア ミラクル・・・」
どこかで聞いた言葉が、耳の奥でこだました。

茶話会当日、ベビーチーズを囲むみんなの笑顔があった。
おいしいものは人を幸せにする。
受けた恩は、人に渡したくなる。
もらった感動は、こうして誰かに話したくなる。

東通五丁目菓子店。
真っ赤なホロのお店にあなたも、おなかとココロを満たしに出かけませんか?