2013年9月

第90回
受け取るのも優しさ


「これ、持って行きな」
あなたは、見知らぬ人からそう言われたらどうしますか。
ものにもよるとは思いますが。
それが、ナスだったら? シソだったら? ピーマンだったら?

とある夕方、ウォーキングしていた時のこと。
いつもの道を通ると、畑のわきに一人のおばあちゃんが座っていました。
赤いチェックのシャツで、にこにこしながらこっちを見ています。
「こんにちは」
「こんにちは。あんた、どこから歩いて来た?」
「桜が丘です」。
そんなふうに会話が始まりました。

聞くとおばあちゃんはひとり暮らし。
だんなさんをなくし、子どもたちは家を出てそれぞれ所帯を持っているとのこと。
田んぼや畑もあるけれど、それはもう人に貸し、少しの量だけ作っているとか。

そんなやりとりがあった後、ふいにおばあちゃんが言いました。
「ナス、持って行かんか?」
「 !? はい、喜んで!」
そうして目の前になっているナスを、ぱちりぱちりと切り落としてくれました。
「袋、持ってないよな」
「はい、持ってません」
「じゃ、おいで」
ついて行くと、「ここが作業場」と近くの小屋に案内されました。

「冷蔵庫もある」
そう言って、真新しいスーパーの袋に、「ぽとん」。何やら落としました。
「缶チューハイ。私の楽しみ。姉さんも飲め」
「わは、嬉しい!」

その後はナスにピーマン、シソにモロヘイヤ。
「ピーマンは、みそ炒めにして食べればいい」
「シソは刺身にちょっとつけてもいいしな」
おばあちゃんは畑にある野菜をあれこれとり、私はわーいわーいと袋を広げてついて歩きます。

「私はな、こうして人に何かしてあげるのが好きなんだ。
道路工事の人にも玄関でお茶っこ出して、話しっこするんだ。
すると喜んでくれてなぁ。
その顔を見るのが、私の喜び」

とかく人は「してもらう」ことに慣れていません。
「いえいえ」と遠慮したり、しり込みしたりします。
私もでした。
けれど、ずっと気になっていることがありました。

せっかくの好意を無にすることは、相手を傷つけるのかもしれないな、と。
人が幸せを感じる機会を奪っているのかもしれないな、と。
私だって、電車で勇気を出して席を譲っても、座ってもらえなないと淋しいから。
だからこの度は、大手を振って受け取ることにしたんです。

袋には野菜がパンパン、缶チューハイがポッチャンポッチャン。
それを揺らしながら、上り坂でもなんと足取りが軽いことか。
「さあて、あのおばちゃんに、何をお返ししようかな」
楽しみが増した、初秋の夕暮でした。