2015年3月

第108回
その笑顔に会いたくて


子どもの笑った顔が好き。
「ほら、おいで」と広げた手の中に駆け込んで来た顔も、
参観日、並んだ中から私を見つけ、手を振ってくれたその顔も、
いつまでも、しまっておきたい宝物。

きっと親は、子どもの笑顔が見たくて生きている。
きっと親は、子どもの笑顔に助けられて生きている。

いつだったろう。
子どもたちがまだ小さい頃、寝ても覚めてもしゃべりまくりの息子が熱を出した。
元気な時は「おかーさん、みてー」「おかーさん、こっちきてー」「おかーさん、うんちでたー」。1分間に5回は呼ばれるのが、うるさくてうるさくて。
「もおー、少しはだまってろ」
そう思っていたくせして、いざ寝込まれると気が気じゃない。
こんこん眠るその横で「うるさくてもいい、早く元気になって」と願った。

気が弱くなると、人はあらぬことを考える。
「このまま起きなかったらどうしよう」
「このまま死んじゃったらどうしよう」
ずっとそばに張り付きながら、寝たような寝ないような3日目の朝。

「…おかーさん…」
かすかな声にがばっと身を起こす。
すると「お腹すいた」。
久しぶりに聞く声、3日ぶりに見る笑顔。
「わかった! おかゆ持って来るね」と台所へ急発進。

あっためたおかゆを小さなお茶碗へ盛ろうとして、ふいに涙があふれた。
「…お母さん、どうしようかと思った」
お玉を持ったまま泣き出すと、かたわらにいた4歳の娘がぽつりつぶやいた。
「…お母さん、わかるよ」

え? わかるんだ? こんな子でも、人の気持ちがわかるんだ?
あっけにとられていると、続けて娘は言った。
「おかあさんは、おかゆをもろうとしていたんだね」

あ、そっちね!
我に返っておかゆを盛る。
ごはんを口にした息子、焼き芋みたいな湯気を出しながらにこっとほほえんだ。
それ見て「ああ、もう大丈夫」って、心の糸がするするほどけていったんだ。

笑った顔はバロメーター。心と体のバロメーター。
クリスマス、ほしいプレゼントをあげたくて長蛇の列に並び、
誕生日、普段やりもしないパエリアなんかに挑戦する。
それは全部、あなたのため。
全部全部、その笑顔を見るため。
フシギだね、それだけのことがお母さんを動かすエネルギーになるんだよ。

今日も日本中に、そして世界中に、子どもの笑顔があふれますように。