2016年4月

第121回
家族

 
春は、パズルみたい。
アパートを出る人と、またそこに入る人。
家を離れて旅立つ人と、戻ってくる人。
日本中でかちゃかちゃと、いろんなピースが動きます。
 
この春、だんなが家を離れることになりました。
結婚してから単身赴任は一度だけ、それも県内にたったの一年間。
それでも子どもたちにとっては青天のヘキレキ。
大好きなお父さんに会えないなんて。
 
「お父さんね、今度能代で働くことになったんだ」
そう告げられた9歳の娘と7歳の息子。
「おとうさん、かえってこないの?」
「おとうさんといっしょがいい!」
右ひざに娘、左に息子を乗っけ、3人でわんわん泣いていたことを思い出します。
 
あれから8年がたちました。娘17、息子は15。
「お父さんね、春から別なところで働くことになったんだよ」
ふたりとも、言葉がありません。
父親を見つめたまま、時間も思考も止まったよう。
「どこで?」
「東京で」
「どのくらい?」
「3年」
 
長い沈黙。
それをやぶったのは息子でした。
「3年って…。ぼくの高校の間、お父さんいないの?」
「うん」
「3年たったら、ぼく、もういないよ!」
「うん」
「もう大学行っちゃうかもしれないよ!」
「うん」
 

こらえていた涙が、一気にあふれます。
こんなに声を上げて泣く息子を見るのは、いつぶりかわかりません。
その横で娘が膝に顔をうずめています。
床に涙の粒が、後から後から落っこちます。
 
ごめんな、ごめんなと背中をさする夫。
その目からも涙がじわじわにじみます。
15分ほどみんなして、わんわん泣いて鼻かんで。
 
その後、息子が真っ赤な目をして、詰まった鼻で言いました。
「あやまらないでよ、お父さん!
もう決まったことなんでしょ。なら、仕方ないじゃん」
そう言う顔はもうだいぶ吹っ切れていました。それは夫も圧倒されるほど。
 
「おかしいと思ったんだよ。釣り糸買いに行った時、お父さんは『こっちでいいな』って短いの選んだでしょ? あの時、もう釣りしないのかなって思ったんだよ」
「そうだっけ? 無意識だった」
そんな話をしながら「死ぬわけじゃないし」「また会えるし」となったのでした。
 
家族がばらばらになる。
それがいいのか悪いのか。
会社の都合や、職場のバランス、経済の発展、その他もろもろ。
いろいろあるのだろうけれど、それでもやっぱり家族は一緒に暮らしたい。
特に、子どもが「子ども」でいるうちは。
 
翌日、ぷっくりとまぶたを腫らした息子が起きてきました。
「東京に泊まる場所ができたぞ!」
「そだね」
「上野で、パンダが見れるぞ!」
「そだね」
「修学旅行で行きそこねたアメ横に行くぞ!」
「そだね」
 
そうして鏡に映った自分を見て一言。
「で、ぼくの目、どうしたんだ!?」
 
まだまだにぎやかな、春です。